MENU

【図解】著作権法改正でBGM使用料を歌手にも|店舗負担はいつから

著作権法改正で店舗BGM代が値上げ?3年後の影響と対策

著作権法改正とは、2026年6月17日に成立した、店舗などで流れるBGMの使用料を作詞・作曲家だけでなく歌手・演奏家・レコード会社にも分配する「レコード演奏・伝達権」を創設する法改正です。すでに142の国・地域が導入済みで、日本のアーティストが海外で楽曲を消費されても得られなかった対価を回収する狙いがあります。

カフェや美容院、商業施設で何気なく流れている音楽。その使用料の行き先が、今回の改正で大きく変わります。本記事では、何が決まったのか、店舗の負担はいつからいくら発生するのか、そして日本の音楽コンテンツにとってこの改正がどんな意味を持つのかを整理します。

この記事でわかること

  • 店舗BGMの使用料が拡大: 従来は作詞・作曲家にしか支払われなかった使用料が、歌手・演奏家・レコード会社にも分配されるようになります。
  • 施行は公布から3年以内: 成立直後に支払いが始まるわけではなく、具体的な金額や徴収団体は今後の協議で決まります。
  • 狙いは国益の回収: 142の国・地域が導入済みで、海外で流れる日本楽曲の使用料を取り戻すための国際標準への適合です。
目次

改正著作権法で何が決まったのか|3つのポイント

2026年6月17日、参議院本会議で改正著作権法が可決・成立しました。今回の改正の柱は、店舗や商業施設で流れるBGMの使用料を、歌手や演奏家、レコード会社にも分配する「レコード演奏・伝達権」の創設です。

ポイントは3つに整理できます。第一に、対象が広がったことです。これまで店舗でBGMを流した際の使用料は、作詞家や作曲家にしか支払われてきませんでした。改正後は、実際に歌い演奏する実演家と、音源を制作したレコード会社にも対価が支払われます。

第二に、施行時期です。改正法の施行は公布から3年以内とされており、成立した今この瞬間から店舗が新たな支払いを迫られるわけではありません。第三に、徴収と分配の枠組みです。使用料の徴収・分配は、文化庁長官が今後指定する団体が担うと定められました。どの団体が指定され、どのような料率になるかは、これから協議されます。

つまり「権利の枠組みは決まったが、運用の中身はこれから」という段階にあります。

「レコード演奏・伝達権」とは何か|JASRACとの違い

「レコード演奏・伝達権」とは、店舗や公共施設などで市販の音源がBGMとして再生された際に、歌手・演奏家といった実演家やレコード製作者が対価を受け取る権利のことです。今回の改正で新たに創設されました。

ここで多くの方が疑問に思うのが、すでに支払っているJASRAC(日本音楽著作権協会)の使用料との違いです。従来、店舗が支払ってきたBGM使用料は、楽曲を「作った人」、つまり作詞家・作曲家への分配が中心でした。一方、新しいレコード演奏・伝達権は、楽曲を「演じた人」「録音した会社」、つまり歌手・演奏家・レコード会社への分配を対象とします。同じ一曲のBGM利用に対して、作り手への対価とは別に、演じ手・録音元への対価が加わるイメージです。

改正の前後で使用料の流れがどう変わるのかを、次の図で整理します。

店舗・商業施設(BGMを利用) 改正前 使用料の行き先 作詞家・作曲家 のみ 改正後 作詞家・作曲家 + 歌手・演奏家 + レコード会社

図のとおり、改正前は使用料が作詞・作曲家にのみ向かっていましたが、改正後は歌手・演奏家・レコード会社へも分配の流れが生まれます。徴収・分配を担う団体は文化庁長官が指定するため、既存のJASRACの仕組みとどう接続・並立するかが、今後の運用上の焦点となります。

Q. レコード演奏・伝達権とJASRACの使用料は何が違う?

A. JASRACが管理する従来の使用料は作詞家・作曲家への分配でした。新権利は同じBGM利用に対し、歌手・演奏家・レコード会社にも対価が支払われる仕組みで、徴収・分配団体は文化庁長官が今後指定します。

この「作り手」と「演じ手」の権利の二重構造を押さえておくと、なぜ今回の改正が必要とされたのかが見えてきます。

なぜ今改正されたのか|142カ国との差と日本の遅れ

レコード演奏・伝達権は、決して新しい発想ではありません。この権利は1961年に採択されたローマ条約にすでに盛り込まれていました。それにもかかわらず、日本は店舗側の負担への配慮を理由に半世紀以上にわたって導入を見送り、1970年に成立した現行著作権法でも採用しませんでした。

その間に、世界は先へ進みました。韓国は2009年、中国は2020年(2021年施行)、シンガポールは2021年に導入し、欧州を含む142の国・地域がこの権利を制度化しています。日本は主要国の中で、ほぼ唯一の「未導入国」として取り残されてきたのです。

主要国がどのような順序で導入してきたのか、日本の遅れを時系列で示します。

主要国の導入時期と日本の遅れ 韓国 2009年 中国 2020年 シンガポール 2021年 日本 2026年

なぜ導入が急がれたのか。背景には「相互主義」という国際ルールがあります。この権利は、自国に同等の制度がなければ、海外からの使用料分配を受けられない仕組みになっています。日本にこの権利がなかったため、アニメソングやJ-POPが海外の店舗で流れても、日本のアーティストやレコード会社は対価を回収できませんでした。2019年に発効した日EU経済連携協定(EPA)でも討議事項とされ、国際レコード産業連盟(IFPI)などの国際団体も導入を求めてきた経緯があります。

(編集部分析)半世紀にわたって導入を見送ってきた背景には、利用者側への配慮を優先しすぎる日本的な慎重さがあったといえます。新しい負担を誰かに求めることへのためらいは、ある意味で日本の国民性とも言える美徳かもしれません。しかし、その配慮が結果として自国のアーティストの正当な対価回収を妨げ、142カ国から取り残される事態を招いたのも事実です。国際標準に合わせる今回の改正は、遅きに失した感はあるものの、前向きに評価すべき変化だと考えます。

Q. なぜ日本だけ導入が遅れていた?

A. この権利は1961年のローマ条約に盛り込まれましたが、日本は店舗側の負担への配慮を理由に半世紀以上見送ってきました。韓国(2009年)・中国(2020年)が導入する中、142の国・地域でほぼ唯一の未導入国でした。

国際標準への適合という大義の一方で、現実に負担を負うのは国内の事業者です。次に店舗側への影響を見ていきます。

店舗・事業者への影響|負担はいつから・いくらか

事業者にとって最大の関心は「いつから、いくら払うのか」でしょう。結論から言えば、どちらも現時点では確定していません。施行は公布から3年以内であり、その間に文化庁が指定する団体と事業者側が料率を協議します。具体的な金額はその協議を経て設定されるため、現段階で確定額は示されていません。

負担の影響を考える上で、利用実態のデータが参考になります。文化庁の市場調査によると、事業所を保有する回答者のうちレコード演奏を行っている割合は全業種平均で29.7%、事業所数では約157万に上ると推計されています。音源の種類別では、CD・レコード系の利用が27.8%、USEN等の有料音楽チャンネルが23.6%、SpotifyやYouTube等のプラットフォーム系が23.1%となっており、邦楽の利用が56.1%を占めます。とりわけ飲食・宿泊業では利用率が高く、新たな負担の影響を受けやすい業種といえます(※業種別の厳密な区分は確認中)。

この改正をめぐっては、立場によって評価が大きく分かれます。音楽業界側と店舗・事業者側の主な論点を整理します。

論点賛成派(音楽業界・アーティスト)慎重派(店舗・事業者)
対価還元の公平性実際に歌い演奏した実演家にも還元されるのが当然既存使用料に上乗せされる二重負担になりかねない
海外展開・回収相互主義で海外の使用料を回収でき国際競争力が向上海外回収は大手中心で中小店舗には恩恵が及びにくい
コスト・運用施行まで3年あり協議で適正な料率を設計できる物価高・人件費高騰の中で価格転嫁が難しい

表のとおり、対価還元の理念には一定の正当性がある一方、現場のコスト感覚との隔たりも小さくありません。

(編集部分析)アーティストへの対価還元という方向性は支持できます。ただし、その負担を最終的に負うのは、物価高と人件費高騰にあえぐ街のカフェや美容院、小規模な飲食店です。徴収団体の指定や料率設定の過程で、大手チェーンと個人経営の店舗を一律に扱えば、体力の弱い事業者から先に音楽利用そのものを諦める事態を招きかねません。理念の正しさと現場の実情は、どちらも誠実に伝えられるべきです。施行までの3年間で、事業規模に応じた現実的な料率設計がなされるかを注視する必要があります。

Q. 店舗の支払いはいつから始まる?

A. 改正法の施行は公布から3年以内とされており、成立直後に支払いが発生するわけではありません。施行までに文化庁が指定する団体と事業者側が料率を協議します。

Q. BGM使用料はいくらになる?

A. 具体額は未定です。法成立後に指定団体が事業者と協議して設定します。事業所の規模や業種で異なる料率になる可能性があり、現時点で確定した金額は示されていません(※確認中)。

負担の議論と表裏一体なのが、対価を受け取る側であるアーティストの収入です。次に見ていきます。

歌手・アーティストの収入はどう変わるか|国益とコンテンツ産業

歌手や演奏家にとって、この改正は新たな収益源の誕生を意味します。国内のBGM利用からの分配に加え、相互主義によって海外で日本楽曲が流れた際の使用料も回収できるようになるためです。海外人気の高いアーティストほど、その恩恵は大きくなると見られます。ただし、増加額の具体的な試算は公表されていません。

ここで国益の観点が重要になります。日本のアニメソングやJ-POPは、いまや世界中で消費されるコンテンツです。にもかかわらず、レコード演奏・伝達権を欠いていたために、海外の商業施設で日本の楽曲が流れても、アーティストやレコード会社は一円も回収できませんでした。日本が生み出した文化的価値が、国外で「取りはぐれ」となっていたのです。

(編集部分析)これは単なる業界内の分配問題ではなく、日本のソフトパワーの収益を主権的に回収できるかどうかという問題です。アニメや音楽は、日本が世界に誇る数少ない輸出力のあるコンテンツ産業です。その対価を相互主義のもとできちんと回収する仕組みを持つことは、経済的自立の観点からも理にかなっています。海外で愛される日本の楽曲が、ようやく正当な対価を日本に還元できるようになる。回収意欲を制度として実装した点は、国益にかなう前進だと評価します。

Q. 歌手の収入はどのくらい増える?

A. 増加額の試算は公表されていません。ただし国内のBGM利用に加え、相互主義により海外で日本楽曲が流れた際の使用料回収が可能になるため、海外人気の高いアーティストほど恩恵が大きいと見られます。

実演家への対価還元という今回の改正は、いま進行するもう一つの大きな変化、すなわちAIによる音楽生成の広がりとも無関係ではありません。

今後の論点|AI時代の「実演」の価値と展望

今回の改正が「実演家」、つまり実際に歌い演奏する人間への対価還元を強化した点は、AI時代において特別な意味を帯びます。AIによる音楽生成が急速に広がる中で、人間が実際に歌い、演奏したという「実演」の価値をどう守るかが問われているからです。

X上の世論でも、今回の改正をAI時代における実演重視の流れとして歓迎する声が見られました。生成AIが楽曲を量産できる時代だからこそ、生身のアーティストが生み出す表現の対価を制度として保護する意義は大きいといえます。

(編集部分析)最も懸念されるのは、人間の実演とAI生成の区別がつかなくなる事態です。AIが人間の歌声や演奏を精巧に模倣できるようになれば、「誰の実演に対価を払うのか」という制度の前提そのものが揺らぎます。今回のレコード演奏・伝達権は人間の実演家を保護する枠組みですが、AI生成楽曲がBGMとして広がったとき、その線引きをどう維持するのか。施行までの3年間は、この区別を制度的にどう担保するかを議論する猶予期間でもあります。人間の創作と表現の価値を守る一線を、技術の進歩に流されずに引けるかどうかが問われます。

AIが人間の創作・表現の領域へ急速に進出している現状については、こちらの記事もあわせてご覧ください。

📌 AIが人間の創作・表現領域へ進出している現状はこちら
→ 【図解】Google I/O 2026まとめ|AIが”勝手に動く”時代が来た・Gemini Sparkの脅威

Q. AIが作った音楽も対象になる?

A. 現行の制度設計では実演家・レコード製作者への対価還元が主眼で、AI生成楽曲の扱いは明確化されていません。人間の実演とAI生成の区別が今後の論点になると見られます(編集部分析)。

施行までの3年間、徴収団体の指定、料率の設計、そしてAI時代の実演の線引きという3つの宿題に、どう答えが出されるのかが注目されます。

参考情報

  • 文部科学省「アーティスト等への適切な対価還元に向けて『著作権法改正案閣議決定』」(2026年5月15日):https://www.mext.go.jp/b_menu/activity/detail/2026/20260515.html
  • 日本経済新聞「歌手にもBGM使用料 改正著作権法が成立、公布から3年以内施行」(2026年6月17日)
  • 時事通信(2026年6月17日):https://www.jiji.com/jc/article?k=2026061700731&g=soc
  • 文化庁 文化審議会著作権分科会 政策小委員会 レコード演奏・伝達権 市場調査資料

この記事を書いた人:あいすべ(監修・編集統括)

健診・治験の現場で10年以上、臨床データの精査に従事。地方公務員として公立病院に勤務し、経営推進課の責任者を経てマーケターに転身。データ検証と実践哲学(葉隠)の両面から、情報のバイアスを見抜く視点で「大和帰郷」を運営しています。資格・経歴は実在し、求めに応じて証憑を提示できます。。

→ 監修者プロフィールの詳細はこちら

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次