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日比海洋境界交渉に中国が猛反発|台湾東方EEZの狙い

日比海洋境界交渉に中国が猛反発

2026年7月、日本とフィリピンが排他的経済水域(EEZ)と大陸棚の境界画定交渉に入ることで合意したことに対し、中国が「国際法違反・違法かつ無効」だと猛反発しています。交渉の対象が台湾の東方海域とみられるためで、中国は海警局の公船を常駐させて日比を威圧。7月20日からマニラで開かれるASEAN関連外相会議も舞台に、対立が広がっています。この記事では、5月28日の高市・マルコス会談で何が決まったのか、なぜ中国がここまで反発するのか、そして日本の安全保障・国益にとっての意味までを、事実に基づいて整理します。

この記事でわかること

  • 合意の中身:高市早苗首相とマルコス比大統領は5月28日、関係を「包括的・戦略的パートナーシップ」に格上げし、EEZ・大陸棚の境界画定交渉を正式に開始することで合意しました。
  • 中国が反発する理由:交渉対象が台湾東方の海域とみられ、「台湾は自国領」とする中国が「当該海域には中国のEEZがある」と主張。海警局の公船を常駐させて威圧しています。
  • 広がる舞台:台湾も協議参加を要求し、フィリピンが議長国を務める7月20〜23日のASEAN関連外相会議でも、中国が非難を強める可能性があります。
目次

日比が海洋境界画定の交渉入りで合意|何が決まったか

ことの起点は2026年5月28日、東京・元赤坂の迎賓館で開かれた日比首脳会談です。高市早苗首相と、国賓として来日したフィリピンのマルコス大統領は、両国関係を「包括的・戦略的パートナーシップ」に格上げすることで一致しました。その柱の一つが、国連海洋法条約(UNCLOS)と関連する国際司法判例に従い、両国間のEEZと大陸棚の境界画定交渉を正式に開始するという合意です。日本政府は、これによって「地域の法秩序と予見可能性を高める」と説明しています。

会談では安全保障協力も大きく前進しました。両首脳は、機密情報を共有するための秘密軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結交渉を始めることで合意。あわせて海上自衛隊の「あぶくま」型護衛艦やTC-90練習機などの装備移転を加速させることでも一致しました。護衛艦については、フィリピンが退役予定の「あぶくま」型5隻を取得することで7月7日に大筋合意したと報じられています。海洋境界の画定と防衛協力が同時に動き出した形です。

この一連の合意に対し、中国はただちに強い反応を示しました。次章では、なぜ「境界画定交渉」という一見すると事務的な手続きが、これほどの反発を招いているのかを見ていきます。

なぜ台湾東方なのか|重複するEEZと第1列島線

日比が境界を画定しようとしている海域は、台湾の東側に広がっています。日本の南西諸島とフィリピンの間に位置し、両国のEEZ・大陸棚が重なるこの海域は、地政学的には「第1列島線」の要にあたります。第1列島線とは、日本列島から南西諸島、台湾、フィリピンへと連なる島々を結んだラインで、中国の海洋進出を抑える防衛上の概念として知られています。

第1列島線と「台湾東方海域」の位置関係 中国大陸 第1列島線 日本(南西諸島) 台湾 台湾東方海域 日比のEEZ・大陸棚が 重複=画定交渉の対象 フィリピン 海警局 公船を常駐・威圧
図:日本・南西諸島から台湾、フィリピンへと連なる「第1列島線」と、日比が境界画定交渉の対象とする台湾東方海域(模式図)。

問題は、中国がこの海域を自国の権益に関わる海域だと主張している点です。中国は「台湾は自国の一部」という立場を取っており、その延長として「台湾東方の海域にも中国のEEZがある」「日比が中国抜きで境界を決めるのは認められない」と反発しています。日本・フィリピンと中国の主張は、次のように真っ向から対立しています。

論点 日本・フィリピンの立場 中国の主張
交渉の性質 UNCLOSと国際判例に基づく正常な二国間の境界画定交渉 「国際法違反・違法かつ無効」な国際的不法行為
対象海域の権利 両国のEEZ・大陸棚が重複する海域を画定する 当該海域には中国のEEZがあり、権益が及ぶ
手続き 国際法に従い予見可能性を高める協力 事前協議なしで進めるのは一方的な現状変更
台湾の扱い 日比二国間のEEZ画定交渉 「台湾は自国領」ゆえ台湾東方も中国の管轄

日本政府はこの中国の反発に対し、林芳正官房長官が「国際法上、問題はない」と反論しています。両国のEEZが重複する海域の境界を、当事国どうしが国際法に基づいて話し合うのは正当な手続きだ、という立場です。中国のEEZ主張の背景にある海洋進出の構図は「中国がEEZ内にSLBMを発射」でも取り上げています。

反発する中国・警戒する台湾|周辺国の動向

中国の反発は、言葉だけにとどまっていません。中国の海洋政策を統括する自然資源部は7月上旬、日比の境界画定交渉を「国際的不法行為」と断じる報告書を公表しました。さらに「第2海軍」とも呼ばれる海警局が、台湾東方の海域で「法執行パトロール」を常態化させ、公船を常駐させて日比への圧力を強めています。日本経済新聞によると、中国の艦船110隻以上が第1列島線の周辺に展開し、過去最多の規模に達したと報じられています。

この新たな対立に巻き込まれる形になったのが台湾です。台湾は、日比が自国の頭越しに近海の境界を決めることを警戒し、協議への参加を求めました。台湾海巡署(海上保安機関)は「台湾は主権を持つ独立した国家であり、中国に管轄権はない」と反論。一方で、近海で中国の公船が貨物船などの臨検(立ち入り検査)に乗り出すことを想定し、警戒を強めています。台湾の権益が失われかねないという専門家の警鐘も出ています。

対立の次の舞台となるのが、フィリピンが議長国を務める東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の外相会議です。7月20〜23日にマニラで開かれるこの会議では、中国の代表が日比の海洋交渉を「国際法違反」と改めて非難する可能性があります。中国が周辺国を巻き込みながら圧力をかける構図は、「習近平政権が恐れる「対中包囲網」」で整理した流れとも重なります。

日本の安全保障・国益への影響

今回の合意は、日本の安全保障にとってどのような意味を持つのでしょうか。事実として押さえておくべきは、GSOMIAの交渉開始と護衛艦などの装備移転によって、日本とフィリピンの防衛協力が制度・装備の両面で一段深まったという点です。情報共有の枠組みと、退役装備を活用したフィリピン側の海洋監視能力の向上は、第1列島線という共通の海域を抱える両国にとって、安全保障上の選択肢を広げるものといえます。

(編集部分析)中国がこれほど激しく反発し、110隻を超える艦船を展開させて公船を常駐させる背景には、この日比連携が第1列島線での現状変更に対する抑止力として機能しうる、という中国側の警戒感があるとの見方があります。国民の安全を、他国依存に流されず日本が主体的に守る力をどう確保するか――その観点からは、価値観を共有するフィリピンとの連携で海洋監視や抑止の網を広げることには意義があると評価できます。日米同盟を基軸としつつ、多国間の協力で選択肢を増やしておくことは、主権国家として合理的な備えだといえるでしょう。

(編集部分析)ただし、装備移転や情報協定の交渉開始が、そのまま日本の防衛力そのものの強化に直結するわけではありません。実際の抑止力は、装備を動かす人員・整備・生産の基盤があって初めて成り立ちます。防衛協力を「準同盟」と評価する声もありますが、体制づくりの現実的な課題は残っており、その論点は「防衛産業の生産能力という課題」で詳しく取り上げています。外交の成果を実効性のある抑止力へつなげられるかが、これからの焦点になります。

今後の展望と論点

日比の境界画定交渉は、始まったばかりです。EEZや大陸棚の境界画定は、双方の主張が重なる海域で細かな座標を詰める息の長い作業であり、合意までには年単位の時間がかかるのが通例です。当面は、7月のASEAN関連外相会議での中国の出方と、海警局が台湾東方でどこまで威圧行動を続けるかが、緊張の度合いを左右します。

論点は大きく3つあります。第一に、台湾が求める協議参加を日比がどう扱うか。第二に、中国の公船常駐や臨検といった実力行使が、偶発的な衝突につながるリスクをどう管理するか。第三に、日本が防衛協力の枠組みを、掛け声だけでなく実際に機能する抑止力へと落とし込めるかです。境界画定という外交手続きの一つひとつが、東アジアの海の秩序を占う試金石になっています。

よくある質問(FAQ)

Q. 日本とフィリピンは何を合意したのですか?

A. 2026年5月28日の首脳会談で、両国関係を「包括的・戦略的パートナーシップ」に格上げし、EEZと大陸棚の境界画定交渉を正式に始めることで合意しました。あわせて秘密軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の交渉開始や、護衛艦などの装備移転でも一致しています。

Q. なぜ中国は反発しているのですか?

A. 境界画定の対象海域が台湾の東方とみられるためです。「台湾は自国領」とする中国は「当該海域には中国のEEZがある」と主張し、日比が中国抜きで境界を決めるのは「国際法違反・違法かつ無効」だと反発しています。

Q. 「第1列島線」とは何ですか?

A. 日本列島から南西諸島、台湾、フィリピンへと連なる島々を結んだ線で、中国の海洋進出を抑える防衛上の概念です。日比が交渉する台湾東方海域は、このラインの要にあたります。

Q. 台湾はどう反応していますか?

A. 台湾は自国近海の境界が頭越しに決められることを警戒し、協議への参加を求めました。台湾海巡署は「主権を持つ独立国家であり、中国に管轄権はない」と反論する一方、中国公船による臨検を想定して警戒を強めています。

Q. 日本政府の見解は?

A. 林芳正官房長官は、両国のEEZが重複する海域の境界を国際法に基づいて話し合うのは正当な手続きであり、「国際法上、問題はない」と中国の主張に反論しています。

Q. ASEAN外相会議は関係あるのですか?

A. フィリピンが議長国を務める2026年7月20〜23日のASEAN関連外相会議で、中国の代表が日比の海洋交渉を「国際法違反」と改めて非難する可能性が指摘されています。多国間の外交の場が新たな対立の舞台になりつつあります。

この記事を書いた人:あいすべ(監修・編集統括)

健診・治験の現場で10年以上、臨床データの精査に従事。地方公務員として公立病院に勤務し、経営推進課の責任者を経てマーケターに転身。データ検証と実践哲学(葉隠)の両面から、情報のバイアスを見抜く視点で「大和帰郷」を運営しています。資格・経歴は実在し、求めに応じて証憑を提示できます。。

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