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【8/19】ICC赤根智子所長に米が制裁 日本は最大拠出国という板挟み

【8/19】ICC赤根智子所長に米が制裁 日本は最大拠出国という板挟み

トランプ米政権は2026年8月18日、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長を制裁対象に指定したと発表しました。赤根氏は2024年3月に日本人として初めてICCのトップに就いた人物であり、日本はICCに最も多くの資金を出している国です。同盟国であるはずの米国が、日本人が率いる国際司法機関の長を名指しで制裁する。この事態は、日本が長く曖昧にしてきた立ち位置を正面から問うものになりました。

本稿は共同通信・ロイター・TBS・朝日新聞・読売新聞・日本経済新聞など16媒体の報道と、外務省の公表資料をもとに、何が起きたのか、なぜ起きたのか、そして日本に何が突きつけられているのかを整理します。

この記事でわかること

  • 制裁の中身: 米財務省が赤根所長に科した資産凍結と金融システムからの締め出しが、実務上どこまで効くのかを整理します
  • 対立の起点: ネタニヤフ首相への逮捕状から2025年2月の大統領令に至る流れを、時系列で追います
  • 赤根智子氏の経歴: 日本の検事からICC所長になるまでと、ロシアから懲役15年を言い渡された経緯を確認します
  • 日本の板挟み: 分担金15.4%・約36.9億円という最大拠出国の立場と、対米同盟のあいだで何を選ばされているのかを考えます
目次

米国はICCの赤根智子所長に何をしたのか

米財務省が2026年8月18日、赤根所長ら2人を制裁対象に指定し、米国内の資産を凍結したと発表しました。

共同通信によれば、対象となったのは赤根智子所長と、セネガル出身の上級法廷弁護士アブドゥライ・セイ氏の2人です。ルビオ国務長官が声明を出し、ICCを「政治化された超国家的な裁判所」と批判したうえで「国家主権に対する攻撃を容認しない」と主張しました。まず制裁の骨格を一覧で確認します。

項目内容
発表日2026年8月18日(米国時間)
発表主体米財務省/ルビオ国務長官が声明
対象者赤根智子ICC所長、アブドゥライ・セイ上級法廷弁護士(セネガル出身)
法的根拠2025年2月6日にトランプ大統領が署名したICC制裁の大統領令
主な効果米国内の保有資産の凍結、米国の金融システムの事実上の利用停止(ロイター)
指定理由ICCの管轄権を受け入れていない国の政府当局者への捜査・訴追に直接関与したこと

資産凍結という言葉から連想されるより、実務的な打撃は広い範囲に及びます。順に見ていきます。

制裁の中身は米国内資産の凍結と金融システムからの締め出し

対象者の米国内資産が凍結され、ロイターによれば米国の金融システムも事実上使えなくなります。

個人資産の凍結だけであれば影響は限定的にも見えますが、問題は決済インフラの側にあります。国際的な送金や決済は米ドルと米国の銀行網を経由する場面が多く、そこから外れることは、通常の生活口座やクレジットカードの利用にまで支障が出る可能性を意味します。国際機関の長という公職にある人物に対して、私生活の基盤に届く措置が取られたことになります。

なお、これは刑事手続きではありません。赤根氏が何らかの罪に問われて有罪となったわけではなく、米国政府が行政措置として指定した、という性格のものです。この点は報道を読むうえで混同されやすいので、押さえておく必要があります。

ルビオ国務長官が挙げた理由は「国家主権への攻撃」

ICCが管轄権を認めていない国の当局者を訴追しようとした点を、主権への攻撃だと位置づけています。

ロイターが伝えたルビオ長官の声明は、赤根氏とセイ氏について「ICCの管轄権を受け入れていない国の政府当局者に対し、ICCが捜査、逮捕、拘束、訴追を行おうとする取り組みに直接関与してきた」と説明しています。TBSの報道によれば、長官は「我が国の主権に対する脅威を容認しない」「アメリカ人が外国に連行され架空の罪で裁かれるようなことがあってはならない」とも述べました。

ここには、条約に加盟していない国の国民をその条約上の裁判所が裁けるのか、という国際法上の論点が横たわっています。米国はICC設立条約であるローマ規程に加盟しておらず、中国とロシアも同様です。加盟していない以上その裁判権は及ばない、というのが米国の一貫した立場であり、今回の制裁はその立場を力で押し通した形です。

なぜ日本人所長が同盟国アメリカから制裁されたのか

国籍ではなくICCという組織への圧力であり、ネタニヤフ首相の逮捕状と米兵捜査が引き金になっています。

今回の指定は「日本人だから」でも「赤根個人への報復だから」でもなく、ICCという機関に対する米国の圧力強化策の一環として読むのが実態に近いと考えられます。所長という職にある人物が対象になったのは、圧力の象徴性が最も高いからでしょう。ここに至るまでの流れを時系列で押さえます。

図解1|米国とICCの対立が制裁に至るまで

2002年

国際社会がICCを設立。戦争犯罪・ジェノサイド・人道に対する罪を訴追する常設の裁判所として発足

2020年6月

第1次トランプ政権がICC関係者への制裁を可能にする大統領令に署名

2021年4月

バイデン政権がこの大統領令を撤回。米国とICCの関係は一時的に沈静化

2024年11月

ICCがガザでの行為をめぐりイスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を発付

2025年2月6日

トランプ大統領がICC制裁の大統領令に署名。79の加盟国が共同声明で批判

2026年8月18日

赤根智子所長とセイ上級法廷弁護士を制裁対象に指定。裁判官18人中9人が対象に

この6年の振れ幅そのものが、米国のICCへの姿勢が政権交代で大きく動くことを示しています。個々の局面を確認します。

発端はネタニヤフ首相への逮捕状と米兵への捜査

2024年11月のネタニヤフ首相らへの逮捕状発付が、米国の対ICC制裁を現実に動かしました。

ロイターによれば、米国はこの逮捕状発付などを理由に、2025年以降ICCの検察官や判事ら複数の当局者に制裁を科してきました。加えて、アフガニスタンでの戦闘に参加した米兵の戦争犯罪をめぐる捜査も、米国がICCを敵視する背景として繰り返し挙げられています。同盟国イスラエルの首相と自国の兵士、その両方が対象になったことで、米国にとってICCは看過できない存在になった、という構図です。

なお本稿は、ICCが行った捜査や逮捕状の当否そのものを判断するものではありません。ネタニヤフ首相にも米兵にも司法手続き上の結論は出ておらず、有罪・無罪を前提とした書き方はしません。ここで論じるのは、そこに国家が制裁という手段で介入したこと自体が国際秩序に何をもたらすか、という一点です。

法的根拠は2025年2月に署名された大統領令

トランプ大統領が2025年2月6日に署名したICC制裁の大統領令が、今回の指定の直接の根拠です。

この大統領令は、ICCの捜査に協力する個人とその家族に対して、資産凍結や査証制限を科すことを可能にするものです。ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、2025年2月の署名時点で79の加盟国が共同声明を出して批判しました。当時から「次はどこまで対象が広がるのか」が論点でしたが、その答えが1年半後に所長本人という形で示されたことになります。

米国務長官によるICC解体の主張については、当サイトでもルビオ米国務長官のICC解体宣言と日本の立場で扱いました。今回の制裁は、その方針が言葉から具体的な行政措置へ移った局面と位置づけられます。

赤根智子氏はどんな経歴でICC所長になったのか

日本の検事出身で、2018年にICC裁判官、2024年3月に日本人初のICC所長へ選ばれた人物です。

報道では「ICC所長」という肩書だけが前に出ますが、その前段には日本の刑事司法と国連実務の長いキャリアがあります。経歴を年表で確認します。

時期経歴
出身愛知県
1982年検事に任官
その後函館地方検察庁検事正、名古屋大学法科大学院教授、国連アジア極東犯罪防止研修所長などを歴任
2018年3月ICC裁判官に就任(日本人としては齋賀富美子氏、尾崎久仁子氏に次ぐ3人目)
2024年3月11日18人の裁判官による投票でICC所長に選出(日本人初・任期3年)
2026年8月18日米政権が制裁対象に指定

この経歴のなかで、今回の制裁と最も深く関わるのがロシアとの関係です。

検事からICC裁判官、そして日本人初の所長へ

1982年に検事となり、函館地検検事正や国連の研修所長を経て2018年にICC裁判官へ就任しました。

日本人のICC裁判官は赤根氏で3人目にあたりますが、所長に選ばれたのは初めてです。所長は18人の裁判官による互選で決まる役職であり、2024年3月11日の選出は、日本の司法実務家が国際刑事司法の頂点で評価されたことを意味していました。任期は3年で、現在はその任期中にあたります。

プーチン氏への逮捕状とロシアの懲役15年判決

プーチン氏の逮捕状を出した3人の裁判官の1人で、ロシアは欠席裁判で懲役15年を言い渡しています。

赤根氏は、ウクライナからの子どもの連れ去りに関与した疑いでロシアのプーチン大統領と、子どもの権利を担当する大統領全権代表マリア・リボワベロワ氏に逮捕状を発付した裁判官3人のうちの1人です。TBSの報道によれば、ロシアの裁判所は昨年、この逮捕状の発付は違法だとして赤根氏に最長で懲役15年の有罪判決を下しました。

ここに今回の事態の異様さがあります。赤根氏は、ロシアからは実刑判決を、米国からは制裁を、それぞれ受けたことになります。ウクライナ侵攻をめぐって鋭く対立している二つの大国が、この一人の日本人裁判官に対してだけは同じ方向の圧力をかけている。国際司法という制度が、大国から見れば立場を問わず邪魔になるものだという現実が、そのまま表れた形です。

裁判官18人中9人が制裁対象という事態は何を意味するか

裁判体を構成する裁判官の半数が制裁下に置かれ、ICCの運営そのものが揺らぐ段階に入りました。

共同通信によれば、今回の指定でICC裁判官18人のうち半分の9人が制裁対象となりました。さらに、性加害疑惑で2026年7月に主任検察官を解任されたカーン氏のほか、次席検察官2人もすでに制裁対象となっており、組織としてのICCそのものへの制裁も取り沙汰されている状況です。

半数という数字は象徴的な意味にとどまりません。裁判官が国際的な決済網から締め出されれば、渡航や報酬の受け取り、事務作業に至るまで実務が滞ります。ICCは18日、JNNの取材に対して「法律を適用したことで司法関係者が脅かされる場合、国際的な法秩序そのものが危険にさらされる」とトランプ政権の決定を批判し、「今後も屈することなく、職員や残虐行為の犠牲者を断固として支えていく」と表明しました。共同通信の報道でも、ICCは今回の制裁を「法の支配を台無しにするものだ」と非難しています。

ICCが本部を置くオランダのベーレンドセン外相も18日、制裁について「認めない」とし、拒否する姿勢を鮮明にしました。ホスト国が明確に反対を表明したことで、この問題は米国と一機関の争いではなく、欧州を含む多国間の対立へ広がりつつあります。

日本は何を問われているのか

同盟国の制裁と、自国が最大の資金を出す国際司法機関の擁護と、どちらを取るのかを問われています。

この問題が日本にとって単なる海外ニュースで済まないのは、日本がICCの財政を支える最大の国だからです。金額を確認します。

日本はICC最大の拠出国で分担金は約15.4%・36.9億円

日本の分担率は約15.4%、金額で約36.9億円(2024年)で、加盟国のなかで最大の拠出国です。

日本が1位である理由は単純です。米国・中国・ロシアがICCに加盟していないため、経済規模の大きい加盟国のなかで日本が最上位に来る構造になっています。2023年予算における国別の分担割合は次のとおりです。

順位分担割合(2023年予算)
1日本15.9%
2ドイツ11.4%
3フランス8.5%
4英国8.2%
5イタリア5.9%
6韓国5.0%
7カナダ4.9%
米国・中国・ロシア非加盟(拠出なし)

資金でも人材でも最大級の貢献をしている国のトップが、同盟国から制裁される。この構図を図で整理します。

図解2|日本が置かれた板挟みの構造

支えてきた側面

分担金は約15.4%・36.9億円で加盟国中1位。日本人裁判官を継続して送り出し、2024年には所長も輩出した

同盟国の側面

安全保障を米国との同盟に依存。その米国がICCを「主権への攻撃」と位置づけ、日本人所長を制裁対象に指定した

問われていること:最大の資金を出してきた機関のトップが同盟国から制裁されたとき、日本はどちらへ何をどこまで言うのか。沈黙も一つの選択であり、その選択もまた記録される

では、日本政府はこれまでに何を述べたのでしょうか。

日本政府の公式反応は本稿執筆時点で確認できていない

発表から数時間の時点では、外務省・官房長官のいずれからも公式な見解は確認できていません。

米国の発表は米国時間の18日、日本国内で速報が流れたのは19日未明にあたります。本稿の執筆時点では、政府の公式なコメントは確認できませんでした。今後の記者会見で問われることは避けられず、そこでどのような言葉が選ばれるかが最初の分岐点になります。

選択肢は、大きく三つに整理できます。ひとつは、ICCの独立性を支持し制裁に懸念を示す立場です。オランダはすでにこの方向を明確にしました。ふたつめは、米国の主権に関する主張に一定の理解を示す立場です。みっつめは、いずれにも踏み込まず事実関係の確認にとどめる立場で、これまでの日本外交で最も選ばれやすかった形でもあります。

ただし今回は、これまでと条件が違います。制裁を受けたのが日本人であり、しかも日本が最も多くの資金を出してきた機関の長です。三つめを選んだ場合、それは「自国が推した人物と自国が出した資金を、自国では守らない」という前例として残ります。国益をどう定義するかという問題であり、対米関係の重さを認めたうえでなお、法の支配を掲げてきた国として何を言うのかが問われる局面だと言えます。

よくある質問(FAQ)

Q. 赤根智子氏は罪に問われたのですか?

A. いいえ。今回の制裁は米国政府による行政上の指定であり、刑事手続きではありません。有罪判決を受けたわけではなく、米国内資産の凍結と金融取引の制限が科されたものです。

Q. 制裁を受けると所長の職は続けられないのですか?

A. 制裁は米国の措置であり、ICC内部の役職を左右するものではありません。ICCは18日、職員への揺るぎない支持を表明し、活動を続ける姿勢を示しています。ただし渡航や決済など実務面での支障は生じ得ます。

Q. なぜ米国はICCに加盟していないのですか?

A. 自国の兵士や当局者が国際的な裁判所に訴追されることを避けたいという立場からです。同じ理由で中国とロシアも加盟しておらず、この3か国が抜けていることが日本の分担金が最大になる構造の背景でもあります。

Q. ロシアの懲役15年判決は執行されるのですか?

A. 欠席裁判による判決であり、赤根氏がロシアの管轄下に入らない限り執行される状況にはありません。ロシアはICCに加盟しておらず、この判決自体をICC側は認めていません。

Q. 日本がICCへの拠出をやめる可能性はありますか?

A. 現時点でそうした方針は示されていません。分担金は加盟国としての義務にあたるもので、拠出停止は脱退に近い政治判断を伴います。本稿執筆時点で政府から言及はありません。

参考情報

  • 共同通信「米国がICC赤根所長に制裁 『国家主権に攻撃認めず』」 https://news.yahoo.co.jp/articles/c8d0a502abfd3851fa27eb78f29ca391c8ba3e34
  • ロイター「米、ICC赤根所長らに制裁 ICC『法の支配損なう』と反発」 https://news.yahoo.co.jp/articles/8ab7e0ae53884f2234e06f9d01ff80281d82430a
  • TBS NEWS DIG「トランプ政権 ICC赤根智子所長ら2人を制裁対象に指定」 https://news.yahoo.co.jp/articles/c5cd9fc935636dae7033ebeb260dfddf90ebe91e
  • 共同通信「ICCへの米制裁『認めない』と蘭外相」 https://news.yahoo.co.jp/articles/43aa37a7b5dba0934192d7f49f800f83f877bf7b
  • 共同通信「米制裁は『法の支配を台無しに』とICC」 https://news.yahoo.co.jp/articles/d19f2116aba0a0ecac17020cda93372d5ff7bdb2
  • 外務省「国際刑事裁判所(ICC)」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/icc/index.html
  • nippon.com「国際刑事裁判所への資金拠出は日本が1位」 https://www.nippon.com/ja/japan-data/h02027/
  • Human Rights Watch「米国:トランプ大統領、国際刑事裁判所(ICC)制裁を承認」 https://www.hrw.org/ja/news/2025/02/07/us-trump-authorizes-international-criminal-court-sanctions

この記事を書いた人:あいすべ(監修・編集統括)

健診・治験の現場で10年以上、臨床データの精査に従事。地方公務員として公立病院に勤務し、経営推進課の責任者を経てマーケターに転身。データ検証と実践哲学(葉隠)の両面から、情報のバイアスを見抜く視点で「大和帰郷」を運営しています。資格・経歴は実在し、求めに応じて証憑を提示できます。。

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