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【8/19】田久保前市長の弁護士を証拠隠滅で刑事告発|押収拒絶権はなぜ通るのか

【8/19】田久保前市長の弁護士を証拠隠滅で刑事告発|押収拒絶権はなぜ通るのか

静岡県伊東市の学歴詐称問題が、また一つ新しい局面に入りました。2026年8月19日、市民団体が東京都内で記者会見を開き、田久保真紀前伊東市長の代理人を務める男性弁護士を証拠隠滅の疑いで東京地検に刑事告発したと明らかにしました。同日付で東京弁護士会への懲戒請求も出されています。争点になっているのは、偽造されたとされる「卒業証書」が、いまも弁護士事務所の金庫から出てこないことです。弁護士はその理由として、刑事訴訟法が定める「押収拒絶権」を挙げてきました。制度上の正当な権利なのか、それとも隠蔽なのか。ここが正面からぶつかっています。

この記事でわかること

  • 告発されたのは前市長本人ではありません: 8月19日に証拠隠滅の疑いで告発されたのは、田久保前市長の代理人を務める男性弁護士です。前市長自身は2026年3月にすでに在宅起訴されています。
  • 争点は「押収拒絶権」です: 弁護士は刑事訴訟法105条を根拠に、捜査機関からの提出要請を拒んできました。市民団体はこれが証拠隠滅にあたると主張しています。
  • 法律上は弁護士側に分があるとの見方もあります: 105条の但書には「例外の例外」があり、秘密の持ち主が被告人本人である場合は権利の濫用にあたらないと解されています。
目次

8月19日に刑事告発されたのは誰なのか

告発されたのは田久保真紀前市長本人ではなく、その代理人を務める男性弁護士です。

この点は報道の見出しだけを見ると取り違えやすいところです。静岡朝日テレビが8月19日16時3分に配信した記事は「田久保真紀前市長を刑事告発」という見出しでしたが、本文と他媒体の報道を突き合わせると、19日に告発状が出された相手は前市長の代理人弁護士です。TBS NEWS DIG、時事通信、FNNプライムオンラインはいずれも「代理人弁護士を証拠隠滅の疑いで刑事告発」と伝えています。

田久保前市長(56)自身については、別の手続きがすでに先行しています。大学を卒業していないにもかかわらず偽造した卒業証書を市議会の議長らに見せ、市議会の百条委員会で記憶に反する陳述をしたとして、有印私文書偽造・同行使と地方自治法違反の罪で、2026年3月に静岡地裁に在宅起訴されました。現在は被告の立場であり、有罪が確定したわけではありません。

告発の内容は「卒業証書を金庫に置き続けたこと」

偽造されたとされる卒業証書を法律事務所の金庫で保管し、捜査機関への提出を拒み続けた行為が証拠隠滅にあたるという内容です。

静岡朝日テレビが伝えた告発状の内容によれば、2026年2月に静岡県警が田久保前市長の自宅を家宅捜索した際、弁護士は問題の書類を東京都内の法律事務所の金庫に保管していました。そして翌3月に前市長が在宅起訴された後も、「押収拒絶権の行使」を理由に、捜査機関からの提出要請を拒んでいるとされています。

告発先は東京地検です。書類が保管されているのが都内の法律事務所であるため、静岡ではなく東京の検察庁に出されたかたちになります。なお告発した主体について、TBS NEWS DIGは「市民団体」、静岡朝日テレビは「伊東市民」と表現しており、媒体によって書き方が分かれています。会見に臨んだのは、伊東市で住民訴訟を起こしている市民グループの関川永子代表です。

同じ8月19日付で東京弁護士会に懲戒請求も出された

市民団体は刑事告発と同じ8月19日付で、この弁護士が所属する東京弁護士会に懲戒請求も出しています。

懲戒請求は刑事手続きとは別のルートです。弁護士法に基づき、誰でも弁護士会に対して「この弁護士に懲戒事由がある」と請求でき、弁護士会の綱紀委員会がまず調査に入ります。刑事告発が検察の判断を仰ぐものであるのに対し、懲戒請求は弁護士の職務上の品位を弁護士会自身が審査する仕組みで、結論が出るまでには相応の時間がかかります。

ここまでの経緯を時系列で整理する

2025年5月の卒業証書偽造から2026年8月の弁護士告発まで、1年3か月にわたって手続きが続いています。

個々のニュースは断片的に流れてきますが、並べてみると論点が動いてきた道筋が見えます。

時期出来事出典
2025年5月29日ごろ〜6月4日起訴状によれば、東洋大学の卒業証書を偽造し、市議会の正副議長らに提示したとされる期間時事通信
2025年10月市議会の不信任決議と議会解散を経て伊東市議選が実施される静岡朝日テレビ/SBS
2026年2月静岡県警が田久保前市長の自宅を家宅捜索。卒業証書は都内の法律事務所の金庫にあったとされる静岡朝日テレビ
2026年3月30日静岡地検が有印私文書偽造・同行使、地方自治法違反の罪で在宅起訴時事通信
2026年7月2日市議選・市長選の公費支出をめぐる住民監査請求が棄却されるSBS
2026年7月30日付市民グループが伊東市を相手取り、前市長への約5000万円の損害賠償請求を求めて静岡地裁に提訴SBS
2026年7月31日付千葉県の男性が、前市長と市議ら3人を公職選挙法違反(虚偽事項公表罪)の疑いで静岡地検に告発静岡朝日テレビ
2026年8月19日市民団体が代理人弁護士を証拠隠滅の疑いで東京地検に告発。東京弁護士会に懲戒請求もTBS/時事/静岡朝日テレビ

争点が「学歴があったかどうか」から「証拠がなぜ出てこないのか」へ移ってきたことがわかります。

押収拒絶権とは何か、なぜ弁護士は提出を拒めるのか

弁護士が仕事上預かった他人の秘密に関する物について、捜査機関の押収を拒める刑事訴訟法上の権利です。

根拠は刑事訴訟法105条です。条文は、医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士、弁理士、公証人、宗教の職にある者などが「業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密に関するもの」について押収を拒めると定めています。守られているのは弁護士個人ではなく、秘密を打ち明ける依頼人の側と、そうした職業に対する社会の信頼です。

この権利は絵に描いた餅ではありません。2020年1月には、東京地検の検察官らが押収拒絶権の行使にもかかわらず法律事務所を捜索した事件があり、後に弁護士側が損害賠償請求で勝訴しています。押収を拒める以上は捜索も許されないという考え方が、この分野では積み重ねられてきました。

刑訴法105条の但書にある「例外の例外」が本件の核心

但書は権利の濫用を例外として認めませんが、被告人自身が秘密の持ち主である場合はその例外から外されます。

105条の但書は、押収拒絶権が使えない場合を三つ挙げています。本人が承諾した場合、押収の拒絶が「被告人のためのみにする権利の濫用」と認められる場合、そして裁判所規則で定める事由がある場合です。ここで問題になるのが、二つ目に添えられた括弧書きです。条文には「(被告人が本人である場合を除く。)」と書かれています。

つまり、秘密を預けた本人と被告人が同一人物であるときは、濫用にはあたらないという建て付けになっています。本件では、卒業証書を預けた本人が田久保被告そのものです。この構造を図にすると次のようになります。

刑事訴訟法105条の三段構造

① 原則

弁護士は業務上預かった他人の秘密に関する物の押収を拒める

② 例外(但書)

本人が承諾した場合や、被告人のためだけの権利濫用と認められる場合は拒めない

③ 例外の例外

ただし「被告人が本人である場合」は②の濫用から除かれ、①に戻る

→ 本件は書類を預けた本人が被告人本人にあたるため、③に該当するとの見方がある

市民団体が「押収拒絶権の行使はいついかなる状況でもできるのか」と問うているのは、まさにこの部分です。

証拠隠滅罪は成立するのか、専門家はどう見ているのか

法律の専門家からは、本件で証拠隠滅罪の成立を認めるのは難しいという見方が示されています。

弁護士JPニュースが2026年4月5日に掲載した記事で、弁護士法人ダーウィン法律事務所代表の岡本裕明弁護士は、105条但書について「『被告人が本人である場合』つまり、被告人自身が『秘密の主体』本人である場合は、そのまた例外として押収拒絶権の行使が認められます」と説明しています。そのうえで、弁護士としては押収拒絶権を行使するほかに手段がなく、それが弁護士法上の懲戒対象になるとは考えにくいとの見解を示しました。

証拠隠滅罪そのものの条文にも制約があります。刑法104条は「他人の刑事事件に関する証拠」を隠滅・偽造・変造した場合を処罰の対象としており、法定刑は3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。自分自身の事件の証拠を隠しても、この罪は成立しません。告発された弁護士から見れば依頼人は「他人」にあたるため入口は開いているものの、法律で認められた権利を使って書類を保管し続けることが「隠滅」という積極的な行為にあたるのかという問題が残ります。

論点告発した市民団体の主張法律上想定される反論
書類を保管し続ける行為捜査機関の提出要請を拒み続けており、証拠隠滅にあたる刑訴法105条が明文で認めた権利の行使であり、隠したわけではない
但書の「権利の濫用」依頼人のためだけの濫用にあたる但書の括弧書きにより、被告人が本人である場合は濫用から除かれる
説明責任との関係公人だった依頼人の説明責任を回避させ、市民の知る権利を奪った刑事弁護人の職務は依頼人の利益を守ることで、説明責任の履行は職務の範囲外
弁護士会の懲戒品位を失う非行にあたる法定の権利行使が懲戒対象になるとは考えにくいとの専門家見解がある

右列は現時点で確認できる法解釈と専門家見解から整理したもので、告発された弁護士本人の主張として報道で確認できたものではありません。

告発人は何を問おうとしているのか

押収拒絶権の行使がどんな状況でも許されるのかを、検察と弁護士会に判断してほしいと述べています。

静岡朝日テレビが全文を伝えた告発人のコメントは、弁護士個人への非難というより制度への問いかけの形をとっています。告発人は、田久保氏と長年の友人である弁護士が「公人であった田久保前市長の説明責任を回避するアドバイスをし、市民の知る権利を奪った」と述べたうえで、「全ては弁護士の事務所金庫にある卒業証書らしきものを、早い段階で公表していれば、このように長きに渡り問題が長引くことにはなりませんでした」と続けています。

そして「依頼人の利益が優先されることは理解できます」と前置きしたうえで、公人の責務より私的な利益を優先させる助言が社会正義の観点から許されるのかと問い、「今回の田久保事件は、代理人弁護士なくしては起こりえませんでした」と述べました。締めくくりは「『押収拒絶権の行使』はいついかなる状況でもできるものなのか、検察や弁護士会にご判断いただければと思っています」というものです。自ら「前例の乏しい問題提起をしていると自覚しております」とも記しています。

この市民グループは7月30日付で、2025年10月の市議選にかかった公費について、伊東市が前市長に約5000万円の損害賠償を求めるべきだとする住民訴訟も起こしています。会見での発言からは、刑事・民事・懲戒という三つのルートを同時に動かして司法判断を引き出そうとする姿勢がうかがえます。

いま同時に動いている3つのルート

刑事|検察

前市長は在宅起訴済み。代理人弁護士は8月19日に東京地検へ告発された段階

民事|住民訴訟

7月30日付で静岡地裁に提訴。市議選の公費約5000万円の賠償請求を市に求める内容

懲戒|弁護士会

8月19日付で東京弁護士会へ。綱紀委員会の調査を経て判断される

→ 三つとも入口に立った段階で、いずれも結論は出ていない

この一件が突きつけている論点

公人の説明責任と、依頼人の秘密を守る弁護士の職務が正面からぶつかっている点が最大の論点です。

(編集部分析)押収拒絶権そのものは、権力から市民を守るための仕組みです。捜査機関が弁護士事務所を自由に漁れるなら、依頼人は安心して弁護士に相談できなくなります。この権利を弱める方向の議論は、長い目で見れば市民の側が損をします。制度そのものを疑うのは筋が良くありません。

(編集部分析)ただし本件が引っかかるのは、その権利を使ったのが一般の私人ではなく、現職の市長という公職にあった人物の側だという点です。市長は選挙で選ばれ、税金で運営される役所の長として市民に説明する立場にあります。その説明が滞った結果、伊東市では市議会が解散し、市議選が行われ、公費が支出されました。市民グループが訴訟で挙げた約5000万円という金額は、その負担が市民に回ったことを示しています。私人の秘密を守るために設計された制度が、公人の説明責任を先送りする側に働いたとき、そのコストは誰が負うのか。この問いは制度の側に残ります。

(編集部分析)もう一点、公職に就く人物の経歴がどこまで事前に検証されているのかという問題も残ります。学歴の確認は本来、選挙戦の入口で終わっていてよいはずのものでした。それが当選後に持ち上がり、刑事事件にまで発展したという経過そのものが、選挙制度の点検されていない部分を照らしています。この一件を「一人の首長の資質の問題」で片づけると、同じことが別の自治体で繰り返されます。

なお、田久保前市長は在宅起訴された被告の立場であり、有罪が確定したわけではありません。告発された弁護士についても、現時点では告発状が提出されたという段階で、検察が受理したかどうかも含めて公表されていません。ここから先は、司法と弁護士会の判断を待つことになります。

田久保前市長の弁護士告発をめぐるよくある質問

Q. 8月19日に刑事告発されたのは田久保真紀前市長ですか。

A. 違います。19日に証拠隠滅の疑いで東京地検に告発されたのは、田久保前市長の代理人を務める男性弁護士です。田久保前市長自身は2026年3月に、有印私文書偽造・同行使と地方自治法違反の罪で静岡地裁に在宅起訴されており、こちらは別の手続きです。

Q. 押収拒絶権とはどんな権利ですか。

A. 刑事訴訟法105条が定める権利で、弁護士や医師などが業務上預かった他人の秘密に関する物について、捜査機関の押収を拒めるというものです。守られているのは職業人本人ではなく、秘密を打ち明けた依頼人と、その職業に対する社会の信頼だと説明されています。

Q. 卒業証書は今後、捜査機関に提出されるのですか。

A. 現時点では見通しは示されていません。報道によれば書類は都内の法律事務所の金庫に保管されており、弁護士は押収拒絶権を理由に提出要請を断ってきたとされています。押収を拒める物については捜索も許されないという考え方があるため、強制的に取り出すことは容易ではないとみられます。

Q. 証拠隠滅罪はどのような罪ですか。

A. 刑法104条が定める罪で、他人の刑事事件に関する証拠を隠滅・偽造・変造したり、偽造した証拠を使ったりした場合に成立し、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています。自分自身の事件の証拠を隠しても、この罪には問われません。

Q. 懲戒請求が出されると弁護士はすぐ処分されるのですか。

A. すぐには処分されません。懲戒請求が出されると、まず所属弁護士会の綱紀委員会が調査に入り、懲戒相当と判断された場合に懲戒委員会での審査へ進みます。請求が出された事実と処分が決まった事実は別のものであり、結論が出るまでには時間がかかります。

参考にした報道と資料

  • 静岡朝日テレビ「田久保真紀前市長を刑事告発 告発人がコメント」2026年8月19日16時3分配信
  • 静岡朝日テレビ「【速報】田久保真紀前市長のチラ見せ“卒業証書”提出拒否は違法 弁護士を証拠隠滅容疑で刑事告発」2026年8月19日13時30分配信
  • TBS NEWS DIG「学歴詐称疑惑の前伊東市長・田久保真紀被告の代理人弁護士を証拠隠滅の疑いで刑事告発 市民団体」2026年8月19日14時21分配信
  • 時事通信「前伊東市長弁護人に告発状 『卒業証書保管は証拠隠滅』―市民団体」2026年8月19日
  • 時事通信「ネットで学長名の印鑑調達か 田久保・前伊東市長を在宅起訴」2026年3月30日
  • 静岡放送(SBS)「田久保真紀前市長の学歴詐称疑惑めぐり市民グループが伊東市を提訴」2026年7月31日
  • 弁護士JPニュース「田久保前市長“卒業証書”は『永久に出てこない』?」2026年4月5日(岡本裕明弁護士の見解)
  • 刑事訴訟法105条、刑法104条

この記事を書いた人:あいすべ(監修・編集統括)

健診・治験の現場で10年以上、臨床データの精査に従事。地方公務員として公立病院に勤務し、経営推進課の責任者を経てマーケターに転身。データ検証と実践哲学(葉隠)の両面から、情報のバイアスを見抜く視点で「大和帰郷」を運営しています。資格・経歴は実在し、求めに応じて証憑を提示できます。。

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