防衛省が2027年度(令和9年度)予算の概算要求で、過去最大となる約8兆9000億円を計上する見通しであることが2026年8月20日に明らかになりました。同じ日の夕方、北朝鮮は短距離弾道ミサイルとみられる飛翔体を約10発発射し、防衛省は日本のEEZ(排他的経済水域)の外側に落下したと推定していると発表しています。数字の話と現実の脅威が、偶然にも同じ一日に並びました。
この記事でわかること
- 要求額は約8兆9000億円:「新しい戦い方」「持続的な対応能力」「防衛力の基盤」の三つを重点項目に据えた、過去最大の概算要求とされています。
- 「過去最大」でも今年度予算より小さい:金額を示さない事項要求が多いためで、年末に決まる予算案ではさらに膨らむとみられています。
- 同日に北朝鮮が約10発発射:韓国軍は東海方向へ短距離弾道ミサイル約10発と発表し、小泉防衛相は北京の大使館ルートを通じて厳重に抗議したと述べました。
8月20日の防衛省に何が起きたのか
過去最大の概算要求と北朝鮮のミサイル発射が、同じ8月20日に重なりました。
予算という「これから何年もかけて備える話」と、発射という「その日のうちに起きた話」が同時に動いた形です。
この日、防衛省をめぐって動いた出来事は一つではありません。報道された順に整理すると、次の三つが同じ一日に並んでいます。
| 時刻(日本時間) | 出来事 | 発表・報道 |
|---|---|---|
| 午前中に判明 | 2027年度概算要求が過去最大の約8兆9000億円になる見通し | 読売新聞・朝日新聞・日本経済新聞ほか |
| 午後(要請) | 米軍基地のある15都道府県が日米地位協定の改定を政府に要請 | 共同通信(渉外知事会) |
| 17時4分ごろ | 北朝鮮が弾道ミサイルの可能性があるものを発射、EEZ外に落下と推定 | 防衛省発表/韓国軍・合同参謀本部 |
予算の中身を先に押さえておくと、夕方の発射がどの項目に効いてくるのかが見えやすくなります。まず要求額の内訳から見ていきます。
令和9年度の概算要求8兆9000億円は何に使われるのか
無人機とAI、継戦能力、生産基盤という三つの柱に重点配分される方針です。
防衛省は概算要求の原案で、この三つを重要項目として掲げています。
三つの柱がそれぞれ何を指しているのかを図で整理します。
① 新しい戦い方
無人機・AIへの対応。長距離を飛べる攻撃用無人機、水中で発射できる極超音速ミサイルの開発が挙がっています。
② 持続的な対応能力
有事が長期化しても活動を続けられる力。弾薬や補給、施設の抗たん性といった「続ける」ための投資です。
③ 防衛力の基盤
装備品の生産基盤・技術基盤の強化と、自衛隊員の処遇改善。人と工場という土台側の項目です。
この三つのうち、今回とくに具体的な装備名が出てきたのが①です。順に見ていきます。
攻撃用無人機は「安く・大量に」が前提になっている
開発の前提は、民生品を活用して安く短いサイクルで大量に作れることにあります。
報道によれば、想定されているのは長距離飛行が可能な攻撃用無人機です。高価な装備を少数そろえるという従来の発想とは方向が違います。
(編集部分析)ここは評価できる転換だと考えられます。ウクライナでの戦訓が示したのは、安価な無人機が高価な装備を無力化しうるという現実でした。国内の民生技術を使って数をそろえる方針は、輸入依存を減らし、国内産業に需要を戻す方向にも働きます。ただし「安く大量に」を実際に成り立たせるには、それを作り続ける工場と部品供給が国内に残っていることが前提です。この点は「防衛産業の生産能力が課題|100社超撤退と増産の壁を解説」で触れたとおり、100社を超える企業が撤退してきた分野でもあり、要求額がついても手が足りるかは別の問題として残ります。
水中発射型の極超音速ミサイルは反撃能力の延長にある
無人潜水艇に搭載し、水中から撃つことで反撃能力を強化する構想とされています。
もう一つ挙がっているのが、この水中発射型の極超音速ミサイルの開発です。有事の際の反撃能力を強化する狙いと報じられています。
反撃能力の実射という段階では、海上自衛隊がすでに具体的な一歩を踏んでいます。経緯は「【8/6】海自ちょうかいがトマホーク実射成功|北朝鮮が即日反発した理由」にまとめています。
三つ目の柱には自衛官の処遇改善が入っている
装備の生産基盤の強化と並んで、自衛隊員の処遇改善が要求項目に入っています。
装備をそろえても動かす人がいなければ機能しない、という当たり前の課題が、予算項目として立っている形です。
(編集部分析)装備の数だけを比べる議論に偏りやすい領域ですが、装備と人員の両方がそろって初めて抑止力になります。日中の装備数の差については「【8/17】防衛白書が示す日中の戦力差|中国の潜水艦58隻に海自22隻」で見たとおりですが、その差を埋める話と、隊員のなり手を確保する話は切り離せません。処遇改善が要求項目に残っていること自体は、現実を見た配分だと評価できます。
なぜ「過去最大」なのに今年度予算より小さいのか
金額を書かない事項要求が多く、年末の予算案で膨らむ前提の数字だからです。
要求段階の約8兆9000億円は、着地点ではなく出発点にあたります。
実際、今年度の予算額と並べると、要求額の「過去最大」がどれくらいの幅なのかが分かります。
| 区分 | 金額 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 令和8年度(2026年度)概算要求 | 約8兆8454億円 | 当時「過去最大」と報じられた要求額 |
| 令和8年度(2026年度)防衛関係費 | 9兆353億円 | 実際に成立した今年度の予算額(前年度比+3.8%) |
| 令和9年度(2027年度)概算要求 | 約8兆9000億円 | 今回の要求額。事項要求が多く年末に上積みの見通し |
要求額どうしを比べれば確かに過去最大ですが、すでに成立している今年度予算の9兆353億円は下回っています。この逆転が起きる理由が「事項要求」です。
事項要求とは、政策として必要だと示しつつ金額を空欄のまま出す要求のことです。年末の予算編成で金額を詰めるため、要求段階の合計には乗ってきません。流れにすると次のようになります。
8月:概算要求
金額のある要求=約8兆9000億円。ここに事項要求(金額なし)が多数ぶら下がる。
秋:査定と3文書改定
安全保障関連3文書の改定議論と並行して、事項要求の中身と金額が詰められる。
年末:予算案決定
事項要求に金額が入り、防衛費はさらに膨らむ見通し。与党関係者からは10兆円超との見方も出ている。
この「年末に膨らむ」という前提には、根拠になる政府の目標があります。2022年12月に決定された国家安全保障戦略で、2027年度に防衛力の抜本的強化とそれを補完する取り組みを合わせ、予算水準が当時のGDP比2%に達するよう措置するとされました。今回の令和9年度=2027年度は、まさにその目標年度にあたります。
あわせて、2023年度から2027年度までの5年間の防衛力整備計画では、必要な水準の金額が43兆円程度とされ、2027年度には研究開発・公共インフラ整備・サイバー安全保障・国際協力といった補完的な経費を合わせて安全保障関連経費を11兆円程度まで増額する方針が示されています。
(編集部分析)ここで押さえておきたいのは、「過去最大の8.9兆円」という見出しの数字だけを見ると、むしろ実額を小さく見誤るという点です。目標年度に11兆円程度という枠が先にあり、要求段階では金額を空欄にしたまま年末に詰める。この作り方は、財政規律の観点からは中身の議論が後ろ倒しになりやすい構造でもあります。誰が得をするのかという問いに引きつけて言えば、金額が決まる場面が国会審議から遠い年末の編成作業に寄るほど、国民が中身を吟味する機会は細るということです。自主防衛の強化それ自体は支持できる方向ですが、いくら使って何を得るのかを国民が検証できる形で示すことは、増額を続けるうえでの最低条件だと考えられます。
北朝鮮の弾道ミサイル約10発はどこに落ちたのか
日本のEEZ=排他的経済水域の外側の日本海に落下したと推定されています。
防衛省は8月20日、弾道ミサイルの可能性があるものはすでに落下したとみられる、と発表しました。
小泉防衛大臣は訪問先のインドで記者団に対し、日本時間の20日午後5時4分ごろに発射され、日本のEEZの外側の日本海に落下したと推定していると説明しました。そのうえで「我が国として北朝鮮に対し、北京の大使館ルートを通じて厳重に抗議し、強く非難した」と述べています。現在までのところ、航空機や船舶からの被害報告は確認されていないとしています。
発射数については韓国側から具体的な数字が出ています。韓国軍の合同参謀本部は20日、北朝鮮が午後5時ごろに東海方向へ短距離弾道ミサイルおよそ10発を発射したと発表しました。なお着弾の評価については媒体によって表現に幅があり、ロイターは日本のEEZへの飛来は確認されていないと報じています。詳細は日米韓で分析中とされています。
今月の発射はこれが初めてではありません。報道によれば、北朝鮮は8月6日と12日にも弾道ミサイルを発射しています。
| 日付(2026年8月) | 内容 | 周辺の動き |
|---|---|---|
| 6日 | 弾道ミサイル発射(EEZ外に落下) | 海自「ちょうかい」のトマホーク実射試験の直後、金与正氏の談話の翌日 |
| 12日 | 弾道ミサイル発射 | 米韓合同軍事演習の開始時期と重なる |
| 20日 | 短距離弾道ミサイル約10発を東海方向へ(韓国軍発表) | 米韓演習の終盤。防衛省はEEZ外落下と推定 |
8月6日の発射については「【8/6】北朝鮮が弾道ミサイル発射|金与正談話の翌日にEEZ外落下」で詳しく扱っています。
背景にあるのが、実施中の米韓合同軍事演習です。この演習は北朝鮮有事を想定したもので、トランプ大統領が北朝鮮との関係を理由に規模の縮小を指示し、当初の日程のおよそ半分で終了することが発表されていました。これに対し、北朝鮮の金正恩総書記の妹である金与正氏は談話で、日程が短縮されても軍事演習の本質が変わるわけではなく評価する価値もない、といった趣旨を述べて一蹴していました。演習短縮の経緯は「【8/19】米韓演習が6日短縮|トランプの縮小指示と日本の抑止力」にまとめています。
(編集部分析)演習を縮めても対話には向かわず、発射のペースはむしろ上がっている——今月3回という実績はそう読めます。譲歩が緊張緩和につながるという前提が、少なくとも今回は成り立っていません。日本にとって重要なのは、同盟国の政治判断が揺れても抑止の水準が下がらないよう、自前の探知・迎撃・反撃の能力を積み上げておくことだと評価できます。概算要求で「持続的な対応能力」が柱に入っていることの意味は、こうした反復的な圧力を前提に読むと分かりやすくなります。
Q. EEZの外側に落ちた場合、日本に法的な被害はないのですか。
A. EEZの外側は公海にあたるため領域侵害とは扱われませんが、航行中の船舶や航空機に危険が及ぶ行為であることに変わりはありません。日本政府は関連する国連安保理決議への違反として抗議しています。
予算と発射という二つの動きに加えて、この日は組織のかたちを変える要求も明らかになっています。
退職自衛隊員・家族支援庁は何のための組織か
退職した自衛官とその家族への支援を一体で担うために新設される組織です。
概算要求には、この「退職自衛隊員・家族支援庁(仮称)」の新設など、組織改編に関連する経費も盛り込まれました。
報道によれば、あわせて3つの局を増設する案も含まれており、小泉防衛大臣の肝いりの施策と位置づけられています。退職後の再就職や生活の支援を、これまでのように複数の窓口に分散させるのではなく、一つの組織にまとめる狙いとみられます。
(編集部分析)この項目は、装備の話に比べて地味に見えますが、実は人員確保の根幹に触れています。自衛官には定年が一般の公務員より早い階級があり、「辞めたあとどうなるのか」が入口の志願者数にそのまま跳ね返ります。装備の数だけを積んでも、動かす人が集まらなければ抑止力にはなりません。誰のための予算かという物差しで見れば、これは制服を着て実際にリスクを引き受ける側に配分される数少ない項目であり、国民の理解も得やすい部類だと評価できます。一方で、組織を新設すれば当然に人件費と定員が増えます。既存部署の統廃合とセットで設計されているのか、年末の予算編成で確認していく必要のある点です。
Q. 支援庁が新設されると、いつから実際に動き始めるのですか。
A. 現時点では概算要求に関連経費が盛り込まれた段階です。年末の予算案決定と、必要な法改正や組織令の整備を経てからの発足になるため、稼働時期は今後の編成作業次第となります。
同じ8月20日には、基地を抱える地域と、海外の同志国という二方向でも動きがありました。
日米地位協定の改定要請と日印防衛協力は何を示すか
基地負担の見直しと、同志国との装備協力が同時に進んでいることを示します。
国内と国外で、それぞれ別の課題が同じ日に前に出た形です。
国内側では、米軍基地や関連施設がある15都道府県でつくる渉外知事会が20日、米軍による事件・事故などを防ぐため、日米地位協定の改定に向けた取り組みを進めるよう要請する文書を政府に提出しました。米軍機の飛行や基地周辺への有害物質の流出などは「住民生活に大きな影響を与える可能性がある」として、米軍の活動に国内法令を適用することが不可欠だと指摘しています。会長を務める黒岩祐治神奈川県知事らが防衛・外務両省を訪れ、要請後に「地位協定の抜本的改定がなければ米軍に関するさまざまな問題は解決しない」と記者団に述べました。
国外側では、防衛省が20日、日印防衛相会談後の共同文書を発表し、連携強化のため造船分野での共同開発の可能性を追求すると明記しました。小泉防衛大臣がインドを訪問した際の会談によるものです。
(編集部分析)この二つは、方向が違うようでいて同じ論点に行き着きます。主権国家として、自国の領域で行われる活動に自国の法をどこまで及ぼせるのか、という問題です。地位協定の改定要請は、基地を引き受けている地域の側から出てきた具体的な要求であり、党派を超えて15都道府県が名を連ねている点は重い事実だと評価できます。日米同盟は活用すべき資産ですが、その運用が住民生活の負担として一方的に積み上がる状態を放置すれば、同盟そのものへの国内の支持が細ります。他方の日印協力は、装備の調達先と共同開発の相手を増やすという意味で、特定国への依存度を下げる方向に働きます。造船という分野が選ばれたことも、海洋国家同士の現実的な組み合わせとして理にかなっていると考えられます。
防衛費と概算要求のよくある質問
ここまでで触れきれなかった、周辺の疑問をまとめておきます。
Q. 概算要求は誰が、いつ決めるのですか。
A. 各省庁が翌年度に必要な予算を見積もって財務省に提出するもので、例年8月末が提出期限です。ここから財務省の査定と政府内の調整を経て、年末に政府予算案として閣議決定され、翌年の通常国会で審議されます。
Q. 「事項要求」は普通のことなのですか。
A. 制度上は認められた要求方法で、防衛以外の分野でも使われます。ただし今回は安全保障関連3文書の改定を控えていることから件数が多いと報じられており、要求段階の総額が実際の着地点を表しにくくなっています。
Q. 防衛費のGDP比2%という目標はどこで決まったものですか。
A. 2022年12月に決定された国家安全保障戦略で、2027年度に防衛力の抜本的強化と補完的な取り組みを合わせて予算水準が当時のGDP比2%に達するよう措置する、と明記されました。今回の令和9年度がその目標年度にあたります。
年末の予算案が決まる段階で、事項要求にどれだけの金額が入るのかが次の焦点になります。
参考情報
- 防衛省・自衛隊「北朝鮮のミサイル等関連情報」(2026年8月20日)
- FNNプライムオンライン「過去最大の約8兆9000億円計上へ 防衛省の概算要求」(2026年8月20日)
- FNNプライムオンライン「小泉防衛大臣『厳重に抗議し強く非難した』北朝鮮が弾道ミサイル発射」(2026年8月20日)
- TBS NEWS DIG「北朝鮮『約10発』の短距離弾道ミサイル発射と発表 韓国軍・合同参謀本部」(2026年8月20日)
- 共同通信「日米地位協定改定を要請 基地関連15都道府県」(2026年8月20日)
- 共同通信「日印、造船分野で共同開発の可能性を追求」(2026年8月20日)
- 読売新聞「防衛省の来年度予算概算要求、過去最大8・9兆円」(2026年8月20日)
- 朝日新聞「防衛省が組織改編、退職自衛官らの『支援庁』や3局増設を概算要求へ」(2026年8月20日)
- NHK「防衛省 令和9年度予算案 過去最大 約9兆円要求の方向で調整」(2026年8月19日)
- 財務省「令和8年度防衛関係予算のポイント」
- 防衛省「防衛力整備計画 ⅩⅢ 所要経費等」

