外国人が日本で永住許可を得るときに納める手数料が、現行の1万円から20万円へ、一気に20倍に引き上げられる見通しとなった。出入国在留管理庁が2026年7月3日に政令改正案を公表し、パブリックコメントを8月2日まで実施している。適用は2026年10月1日に受け付ける申請分からとする方針だ。
「高すぎる」という声が上がる一方で、時事通信の7月の世論調査では賛成が56.0%と反対の20.8%を大きく上回った。数字だけを見れば劇的な値上げだが、論点は本当に金額なのだろうか。主要国の水準と並べ、そして「帰化の申請手数料は無料のまま」という制度の非対称に目を向けると、この改定の輪郭が違って見えてくる。
この記事でわかること
- 永住許可1万円→20万円、在留期間の更新・変更6000円→最大7万5000円という改定案の中身と適用日
- これまで「1万円」で据え置かれてきた審査コストを、誰が負担していたのか
- 米英豪加の永住権手数料と比べたとき、日本の20万円がどの位置にあるのか
- 永住は20万円・帰化は無料という逆転が、国籍付与の入口に何をもたらすのか
- 同時に進む永住許可ガイドラインの厳格化と、10月前の駆け込み申請という副作用
永住許可の手数料が1万円から20万円へ|改定案の全体像
出入国在留管理庁が公表した政令改正案は、在留手続き全般の手数料を大幅に見直す内容だ。まず、現行額と改定後の額を並べて確認しておきたい。
| 手続きの種類 | 現行 | 改定案 |
|---|---|---|
| 永住許可 | 1万円 | 20万円 |
| 在留資格変更・期間更新(3か月以下) | 6000円 | 1万円 |
| 同(1年) | 6000円 | 3万3000円 |
| 同(3年以上5年未満) | 6000円 | 6万4000円 |
| 同(5年以上) | 6000円 | 7万5000円 |
ひと目で分かるのは、更新・変更の手数料が「一律6000円」から在留期間に応じた段階制に変わった点だ。長い在留期間を得る人ほど多く負担する設計になっている。
在留期間の更新・変更は一律6000円から段階制へ
これまでは3か月の在留資格でも5年の在留資格でも、更新の手数料は同じ6000円だった。改定案では5年以上で7万5000円と、実に12.5倍になる。長期の在留資格ほど審査に要する確認事項が多く、行政側の負担も重いという説明と整合する形だ。
ただし、負担能力に配慮した減額規定も同時に用意されている。生活保護法に規定する要保護者に準ずる程度に困窮しており、かつ人道上の配慮を要すると認められる場合には、在留手続きは1万円、永住許可は2万円まで減額できるとされている。「払えない人が一律に締め出される」設計ではない点は押さえておきたい。
適用は10月1日申請分から|パブリックコメントは8月2日まで
改定後の手数料が適用されるのは、2026年10月1日以降に受け付けられた申請からとする方針だ。逆に言えば、9月30日までに受理された申請は現行額で処理される。
パブリックコメントは7月3日から8月2日までの30日間。平口洋法相は「国民の皆さまや外国人の方々のご関心も高く、さまざまなご意見があると認識している」と述べ、寄せられた意見を踏まえて検討するとしている。制度の中身に異論がある人にとっては、意見を届ける窓口はまだ開いている。
税金投入の異常事態|「1万円」が放置してきた行政コストと受益者負担
この改定を「外国人いじめ」と読むか「正常化」と読むかは、これまでの1万円という額が何を意味していたかで決まる。
永住許可の審査は、収入、納税、社会保険の納付状況、素行、在留歴を長期にわたって確認する重い作業だ。それを1万円で処理してきたということは、実際に要していた審査コストとの差額を、どこかが埋めていたことを意味する。埋めていたのは申請者ではなく、一般会計を通じた日本の納税者である。
そのうえで、在留外国人は急増している。出入国在留管理庁の統計によれば、2025年末現在の在留外国人数は412万5395人で、前年末から35万6418人(9.5%)増えた。在留資格別で最も多いのが「永住者」で、94万7125人にのぼる。申請の母数が増えれば審査の実務量も増え、審査官の増員やシステム維持の費用も膨らむ。
図解:手数料1万円が生んでいた負担のねじれ
申請者が払っていた額
永住許可 1万円(据え置き)
実際に必要な審査コスト
長期の収入・納税・社会保険・素行の確認/審査官の人件費/システム維持費
差額を埋めてきたのは
申請者ではなく、日本の納税者(一般会計)
つまり今回の改定は、値上げであると同時に「受益者負担への切り替え」でもある。行政サービスの費用を、そのサービスを受ける人が負担するという原則そのものは、外国人政策に限らず広く共有されている考え方だ。
(編集部分析)論点を「外国人に厳しいかどうか」に閉じてしまうと、この改定の本質を見誤る。長年1万円に据え置かれた結果として、審査の実費と申請者負担の差を国民の税で埋めてきた構造こそが異常だった。誰が得をしていたのかと問えば、安価な手続きコストで人材を確保できた受け入れ側の事情も見えてくる。受益者負担の原則を通すこと自体は、主権国家として当然の制度設計だと評価できる。
なぜ20倍なのか|改正入管法が定めた「上限30倍」という枠
今回の政令案は、突然出てきたものではない。根拠となっているのは2026年5月29日に成立した改正出入国管理及び難民認定法で、この改正によって政令で定められる手数料の上限が引き上げられた。永住許可については上限30万円、つまり従来の30倍までの設定が可能になっている。
その枠の中で、政府が今回設定したのが20万円だ。法律が許す上限いっぱいではなく、3分の2の水準にとどめた形になる。
平口法相は引き上げの理由として「在留者に相応の負担を求めることが必要」と説明している。在留外国人の急増に伴う経費を捻出するため、というのが政府の立て付けだ。
20万円は本当に高いのか|主要国の永住権手数料と比べる
金額の妥当性は、単体で眺めても判断できない。永住権の取得に各国政府がいくら課しているかを並べてみる。
| 国 | 永住権申請時の政府手数料の目安 |
|---|---|
| 英国 | 約59万円 |
| オーストラリア | 約49万円 |
| 米国 | 約22万円 |
| 日本(改定案) | 20万円 |
| カナダ | 約17万円 |
| 日本(現行) | 1万円 |
並べて見えてくるのは、20万円が突出しているのではなく、むしろ現行の1万円が突出して安かったという事実だ。20倍という倍率のインパクトが大きいだけで、改定後の水準は米国とほぼ同じ、英豪より安く、カナダをやや上回る程度に着地する。
世論は賛成56.0%|時事通信調査が示した温度
時事通信が7月に実施した世論調査では、この引き上げ方針に「賛成」が56.0%、「反対」が20.8%、「どちらとも言えない・分からない」が23.2%だった。賛成が反対の2倍以上という結果である。
X(旧ツイッター)上でも、「これまでが安すぎた」「払える余裕がある人が永住すればいい」といった賛成側の投稿が広く拡散している。一方で「法外だ」「負担できず在留資格を失う人が出る」という懸念も継続的に発信されており、東京新聞などは識者の懸念を報じている。ただしSNSの反応はあくまで温度感であり、賛否の実勢は世論調査の数字で見るのが妥当だ。
最大の歪みは「帰化無料」にあり|永住20万円化が招く国籍付与のリスク
ここからが、この改定を追ううえで最も重要な論点になる。永住許可が20万円になる一方で、日本国籍そのものを取得する帰化許可申請は、法務局に納める手数料が無料のままだからだ。
帰化申請でかかるのは、住民票や戸籍謄本などの書類取得にかかる実費で、一般に数千円から1万円程度とされる。申請そのものの手数料は課されていない。永住許可と帰化を並べると、次のような対比になる。
| 項目 | 永住許可(改定案) | 帰化許可 |
|---|---|---|
| 申請手数料 | 20万円 | 無料(書類実費のみ) |
| 得られる地位 | 在留資格の一つ(外国籍のまま) | 日本国籍(国民としての地位) |
| 参政権 | なし | あり(選挙権・被選挙権) |
| 退去強制の対象 | なりうる | ならない |
表の右列と左列を見比べれば、価格の付き方が逆さまであることが分かる。国家にとって重い判断は、外国籍のまま長期滞在を認めることではなく、参政権を含む国民としての地位を与えることのはずだ。それなのに、重い方が無料で、軽い方が20万円になる。
X上でも「永住20万円なら帰化のほうが安い」「これでは帰化誘導ではないか」という指摘が拡散している。制度の設計者がそれを意図しているかどうかは別として、経済合理性だけで選択する申請者が現れれば、結果として国籍取得の側に人が流れる圧力が生まれる。
(編集部分析)誰が得をするのかと問えば、この非対称の恩恵を受けるのは「永住より帰化を選んだほうが安い」と判断する層である。参政権を伴う国籍の付与は、主権の一部を分け与える行為にほかならない。その入口が最も安価なまま放置され、外国籍にとどまる選択にだけ20倍の価格が付くのは、国家として順序が逆だと評価できる。値上げに賛成するにせよ反対するにせよ、永住だけを議論して帰化を議論しない構図こそが、この問題の本丸である。帰化についても、手数料の是非にとどまらず審査要件と運用の透明性を含めて正面から議論すべき局面に来ている。
「収入・年金・在留5年」へ|永住許可ガイドライン厳格化が持つ意味
手数料の改定と並行して、永住許可そのものの審査基準を厳しくする議論も進んでいる。報じられている検討案の柱は次の3点だ。
| 論点 | 検討されている方向 |
|---|---|
| 収入要件 | 日本人世帯の平均を上回る収入水準を求める |
| 社会保険 | 年金・社会保険の未納がないことを厳格に確認し、長期にわたる納付継続を見込めるかを問う |
| 在留期間 | 在留期間「5年」の所持者に限る方向。3年を最長とみなす経過措置の廃止を検討 |
ここで注意したいのは、年金に関する要件が「30年間日本に住んで納めなければ永住できない」という話ではないという点だ。趣旨は、未納を放置したまま永住を得る事例をなくし、長期的に社会保険料を負担し続ける見込みがあるかを確認することにある。手数料の値上げだけを見て「金を払えば永住できる」と読むのは誤りで、金額と要件の両面で門は狭くなる方向にある。
すでに2024年の法改正により、住民税や国民年金・健康保険料を支払う能力があるのに意図的に支払わない場合、永住権を取り消しうる制度も本格運用に入っている。入口を厳しくし、入った後も義務の履行を確認する。制度全体としては、そういう方向に動いている。
現場で起きていること|10月前の駆け込み申請
制度改正の日付が決まると、必ず起きるのが駆け込みだ。今回は9月30日までに受理されれば1万円、10月1日以降なら20万円。同じ手続きで19万円の差が生まれる。
図解:申請日1日の差で生まれる19万円
2026年9月30日までに受理
永住許可 1万円
2026年10月1日以降に受理
永住許可 20万円
差額 19万円/受理日が1日ずれるだけで負担が20倍になる
この差額を背景に、現場の行政書士からは、駆け込みの相談が急増しているという発信が相次いでいる。審査の滞留や相談件数の増加を指摘する声も上がっており、10月に向けて申請が前倒しで集中する可能性は高い。
(編集部分析)駆け込みが起きること自体は制度改正に伴う通常の現象だが、審査体制がそれを吸収できるかは別問題である。値上げの目的が審査コストの回収と体制強化にあるのなら、値上げ前に申請が集中し、値上げ後の収入で処理するという順序のねじれが生じる。制度を変えるときは、価格と体制を同時に整える設計が求められる。
これから何を見るべきか|パブコメと受け入れ総量の議論
目先の焦点は8月2日に締め切られるパブリックコメントだ。寄せられた意見を踏まえて政令が確定し、10月1日の適用に向けて手続きが進む。賛成・反対のいずれの立場でも、意見を届ける制度上の機会はここにある。
より長い目で見るべきなのは、手数料の水準そのものではなく、受け入れの総量と質をどう制御するかという議論だ。2025年末の在留外国人412万5395人のうち、国籍・地域別で最も多いのは中国で93万428人、全体の約22.5%を占める。ベトナム68万1100人、韓国40万7341人が続く。永住者は在留資格別で最多の94万7125人にのぼり、前年から2万9009人増えた。
(編集部分析)手数料は入口の一つの調整弁にすぎない。国益の観点で問われるのは、どの国から、どれだけ、どういう条件で受け入れるかを日本自身が制御できているかという点である。特定の国籍に偏りが生じている現状を、事実として直視したうえで、社会保障・治安・地域社会への影響を含めた総量の議論に進む必要がある。20万円という数字の是非だけで議論が終わるなら、それこそが機会の損失だ。
手数料改定の前段にあたる、ビザ手数料の引き上げについてもあわせて確認しておきたい方はこちら → 【図解】外国人ビザ手数料5倍へ|日本人優遇の構造とは
永住許可の手数料改定のよくある質問
ここまで扱いきれなかった周辺の疑問をまとめておく。
Q. 9月中に申請すれば1万円で済みますか。
A. 改定後の額が適用されるのは2026年10月1日以降に受け付けられた申請分とする方針です。したがって9月30日までに受理されれば現行の1万円で処理される見込みですが、政令はパブリックコメントを経て確定するため、最終的な内容は入管庁の公表を確認してください。
Q. 手数料は不許可になっても返ってきますか。
A. 在留手続きの手数料は許可時に納付する扱いが基本で、今回の改定案でもその枠組みが前提とされています。運用の詳細は政令確定時に示されるため、申請前に入管庁の案内で確認するのが確実です。
Q. 家族全員で申請すると人数分かかりますか。
A. 手数料は申請1件ごとに課されるため、家族それぞれが永住許可を申請する場合は人数分が必要になります。世帯単位で見ると負担が大きくなる点が、懸念として指摘されている理由です。
Q. 日本人の側の負担は変わりますか。
A. 今回の改定は在留外国人の手続き手数料が対象で、日本人が納める手数料を直接変えるものではありません。ただし審査コストを申請者負担に切り替える性格を持つため、一般会計からの持ち出しを抑える方向には働きます。
Q. 意見を出したい場合はどうすればよいですか。
A. パブリックコメントは2026年7月3日から8月2日までの30日間実施されています。電子政府の総合窓口(e-Gov)の意見公募手続のページから、政令案に対する意見を提出できます。
金額の是非は立場によって分かれるが、制度がどこへ向かっているのかは事実を追えば見えてくる。
参考情報
- 出入国在留管理庁「令和7年末現在における在留外国人数について」
- 時事通信「外国人の在留手数料、最大7万5千円に引き上げ 永住許可は1万円から20万円に増額―政府改定案・10月施行方針」(2026年7月3日)
- 時事通信「在留手数料上げ、賛成5割 時事世論調査」(2026年7月16日)
- 時事通信「外国人の永住手数料、上限30倍に引き上げ 改正入管法が成立」(2026年5月29日)
- 東京新聞「在留手続き手数料、入管庁が改定案を発表」
- 法務省「帰化許可申請」

